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記事: 鈴鹿墨 — 1300年の墨

鈴鹿墨 — 1300年の墨

進誠堂という、最後の工房


鈴鹿墨(すずかずみ)は、平安時代初期から続く日本の伝統的な墨です。かつて鈴鹿の山々に自生していた豊富な松から良質な煤(すす)をとり、膠(にかわ)と混ぜ合わせたのが始まりとされています。

国の伝統的工芸品にも指定されている鈴鹿墨ですが、時代の変化とともに製造元は減少し、現在では三重県鈴鹿市の「進誠堂」ただ一軒のみがその伝統を守り続けています。

その品質と優美な発色は多くの書家や画家に愛され、全国シェアの約3割を誇ります。

墨職人の勲章 ― 手仕事の極み

鈴鹿墨づくりは、もっとも冷え込む冬の早朝3時から始まります。 膠(にかわ)を溶き、全身を煤で黒く染めながら、一心不乱に墨を練り上げる過酷な工程。 職人の手に深く刻まれ、洗っても落ちることのない黒は、人生を墨作りに捧げた「勲章」そのものです。

完成まで、100日以上。100年先まで色褪せない輝きを宿すため、工房には今日も、静かで熱い時間が流れています。

STEP 01 膠(にかわ)の準備

冬の早朝3時、作業は始まります。動物の骨や皮から作られた膠を釜で湯煎し、数時間かけて職人の勘だけを頼りに最適な飴状になるまで溶かします。

STEP 02 煤との練り合わせ

溶かした膠に松の煤を投入し、重量比でおよそ10:6の割合で混ぜ合わせます。これを素手で約10分間、全身の力を込めて丹念に練り上げ「墨玉」を作ります。

STEP 03 型入れ成形

練り上げた墨玉を木型に詰めます。万力を使って約30分間強い圧力をかけ、木型の細部まで行き渡らせて固めます。この工程が墨の美しい文様を生み出します。

STEP 04 灰置き乾燥

型から抜いた生乾きの墨を、湿り気のある灰の中に埋めます。2〜3ヶ月という長い時間をかけて、墨の内部の水分をゆっくりと、均一に抜いていきます。

STEP 05 磨き・熟成

灰を落とし、表面を磨いて艶を出します。その後、藁で縛って天井から吊るし、さらに1〜3年じっくりと寝かせて自然熟成させ、ようやく製品として完成します。

最後の一軒を守る、父と子の絆

進誠堂を支えるのは、三代目の伊藤亀堂(きどう)さんと、四代目の晴信(はるのぶ)さんの親子です。一度は漫画家を志して家を離れた晴信さんですが、「1300年の伝統を絶やしたくない」という想いから帰郷。父に弟子入りし、感覚だけが頼りの墨作りの世界に飛び込みました。

「あれこれ教えるより、失敗して工夫することで
初めて成功の喜びが得られる」
― 三代目 亀堂さん



厳しくも温かい父の指導のもと、晴信さんは2023年に東海地方最年少で伝統工芸士に認定。「墨づくりは自分との戦い」と語るその横顔には、次代を担う職人の誇りが宿っています。

黒だけではない、進化する「鈴鹿墨」

鈴鹿墨の魅力は、発色の良さと上品な芳香、そして基線とにじみの調和にあります。
しかし、進誠堂の挑戦はそれだけにとどまりません。

伝統を守破離の精神で進化させる

ラメ入りの墨、天然顔料を使用したカラフルな墨など、約150種類以上のバリエーションを展開。さらにパリコレに出展された墨染めの革製品や、建築用塗料など、異業種とのコラボレーションも積極的に行っています。


「書道をしない人でも、日常に鈴鹿墨を感じてほしい」。彼らの墨は、現代のアートやライフスタイルに新たな彩りを添えています。

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